理事長挨拶
 

日本口腔顎顔面外傷学会
理事長 管野 貴浩

日本口腔顎顔面外傷学会 理事長挨拶

島根大学学術研究院 医学・看護学系医学部
歯科口腔外科学講座
教授 管野貴浩

 この度は、本学会ホームページをご覧くださり誠にありがとうございます。ここに皆様方に謹んでご挨拶申し上げます。本年は理事、役員の改選年度でもあり、評議員の方々より選ばれた令和4・5年度の新理事による互選の結果、令和4年9月30日付けで、わたくし管野貴浩が、冨永和宏前理事長の後任として本学会第7代の新理事長に選出されました。大変身に余る大役に身の引き締まる思いをしておりますが、皆様のご協力をもって本口腔顎顔面外傷学会の益々の発展に寄与できる様に、誠心誠意職務に取り組ませていただきたいと考えております。今月より会務を引継ぎ、役員人事を終え、新運営を始めております。
 会員の皆様におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。日ごろより本会の運営をはじめ学会学術活動に多大なご協力とご尽力を賜り感謝致しております。
 このたび新型コロナウイルスの第7波がようやく収束のきざしが見えて参りましたが、これまでに新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方々、および、ご家族、関係者の皆様に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、罹患された方々には心よりお見舞い申し上げます。また、医療従事者様をはじめ、行政の皆様等、感染拡大防止に日々ご尽力されている皆様には深く感謝を申し上げます。

 さて、2022年7月22日・23日の両日に、第 23 回 日本口腔顎顔面外傷学会総会・学術大会が、佐野 次夫 大会長(医療法人 徳洲会 東京西徳洲会病院 副院長)のもとで、「口腔顎顔面外傷における形態ならびに機能回復を目指して」をメインテーマに、3年ぶりに東京立川の地にて現地開催されましたことは大変素晴らしく、皆様のご記憶に新しいものと思われます。教育研修会、特別講演、教育講演さらには多くの演題数と参加者のもとで、口腔顎顔面外傷治療に積極的に参画される先生方により、活発な質疑応答がなされましたことは、学術の活性化とアップデート、そして若手の先生方への修練の場として相応しい、新型コロナウイルス感染症の蔓延以前の本学ならではの、外傷治療に関する臨床と関連研究の学術展開への熱い取り組み姿勢でありました。今後の学会総会・学術大会の場においても、活発な質疑と情報交換を通じて “研究と討議の場”、“若手の先生方の修練の場” となりますことを強く期待致します。

 日本口腔顎顔面外傷学会(Japanese Society of Oral and Maxillofacial Traumatology)は橋本賢二先生(現浜松医科大学名誉教授)を初代理事長として1999年に日本口腔顎顔面外傷研究会としてスタートしました。2002年の第4回研究会から学会となり、今年で24年目を迎えるに至っており、これまでに「(公社)日本口腔外科学会と本学会による “口腔顎顔面外傷診療ガイドライン第1部、第2部” 」を発刊するなど、口腔顎顔面外傷治療にかんして国民の健康福祉に寄与すべく学術活動がなされてまいりました。今後も本学会の設立目的である「口腔顎顔面外傷に関する諸問題について、研究、討議する」ことを、学会誌や学術集会、研修会を通じて達成し、より多くの会員、特に若手の皆様に多く入会していただけるような学会として引き続き発展させて参りたいと存じます。

 口腔顎顔面領域では、近年の各種画像診断機器の開発発展は目覚ましく、先端治療器具・機材の進歩や低侵襲治療術式の有用性に関しても進歩が著しい現状にあります。特に顔面は、通常衣服等によって覆われることのできない整容審美を主とする形態的および多岐にわたる顎顔面機能と社会的な個人識別と、感情と精神の根本となる表情表出におけるヒトとして重要な身体部位です。口腔顎顔面外傷においては、とくに顎顔面骨は鼻腔や眼窩、口腔、気道、さらに歯や顎関節の構造を形作っており、顎顔面骨骨折ではこれらの複雑な解剖学的構造の損傷と破綻だけでなく、骨折骨片の変位や転位により、それらの形態と機能障害とが引き起こされることにより、緊急性をもって手術治療を要する骨折病態や、気道閉塞を含めた生命の恒常性維持への予後に急激な影響を及ぼし得る病態も数多く存在します。
 顎顔面骨骨折の治療ゴールは、全身的外傷病態の維持管理と治療に十分に配慮しつつ、“顎顔面のすべての形態審美と多彩で複雑な機能の回復を即座または可能な限り早期に、予期性と予知性をもって完全かつ合併症なく治癒させ、できるだけ高いQOLと社会生活を回復すること” であります。
 2019年の本学会の「顎顔面骨骨折の診療状況調査」(1998年〜2011年の日本口腔外科学会疾患調査データによる)では口腔外科施設における顎顔面外傷患者は14年間で1.3倍に増加しています。また、下顎骨骨折の増加が1.2倍であるのに対し、上顎骨骨折や頬骨骨折等の中顔面骨骨折は1.5倍に治療患者数が増加しており、骨折の様態そのものも、より複雑化、多様化している状況であることが窺えます。顎顔面骨骨折の治療では咬合と顎関節を始めとした咀嚼機能の回復が必要で、歯科口腔医学的知識と技術が必須の領域であることは論を俟ちませんが、救命救急医や外傷専門医との連携はもとより、顔面骨の形態と機能の回復では関連する形成外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、眼窩関連外傷については眼科と、さらには頭蓋底骨折や脳頭蓋損傷においては脳神経外科とも協働参画により治療する必要があり、互いの領域への理解と高い知識が必要となります。今後は第一線で活躍されている大学や病院の口腔外科医はもちろんのこと、形成外科や耳鼻咽喉科・頭頸部外科その他、口腔顎顔面外傷治療に携わる様々な領域の先生方にも評議員として入っていただき、関連領域の相互理解をより深め、医療水準の向上に寄与する学会として発展させたいと考えています。
 このような医学歯学の集学的知識と技術の開発や伝承、さらにその教育や啓発の場として本学会がますます活用され、少しでも国民の健康福祉に貢献できるように努めて参ります。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2022年10月吉日
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